薬莱山と幻の魚 鉄魚【2007/8/9訪問】
<カテゴリ:山、温泉、自然、文化・遺産>
薬莱山は宮城県北部に位置する舟形連峰の北東部にあり、大崎平野の中でぽっかりと盛り上がった独立した山です。その秀麗な姿が富士山に似ていることから加美富士とも呼ばれていて、天気のいい日には東北新幹線からもそれとわかります。日本百名山ではありませんが、東北百名山(注②)に選定されている山で、標高も553mと低く、家族連れに人気の山です。この薬莱山の名前の由来は、天平7年にこの辺りに厄病が流行った際、山頂に薬師如来を祀ったこととされています。
今回、薬莱山を訪れたのはもちろんこの山に登ることに加えて、幻の魚「鉄魚」を見ることです。鉄魚とは、ここから少し離れた舟形連峰の中腹の沼に生息するコイ科の魚で、幻の魚と言われているようです(ちなみに金魚ではありません)。実はこれまでに、この生息地の沼には何度かトライしましたが、未だに到達できていません。恐らく私が今まで経験してきた中で、日本最後の秘境ではないかと(勝手に)思っています。この難攻不落な沼については、機会あれば触れたいと思います。ただどうしてもこの幻の魚「鉄魚」を見たく、いろいろ調べた結果、薬莱山の麓で飼われていることを探し当てました。今回、薬莱山登山と、この幻の魚である鉄魚を見るため、この地を訪れました。
旅の起点は東北新幹線の「古川」駅です。このあたりは宮城県を代表する米どころ「大崎平野」の中心地です。この古川駅には東北新幹線に加えて、在来線の陸羽東線も通っています。
余談になりますが、このあたりは私が訪れた前の年の市町村合併により、大崎市になりました。大崎という名前は、中世に関東よりこの一帯に移住した豪族である「大崎氏」に由来するようです。ただそれまでは、新幹線の駅名にもなっている古川市が非常に大きな市であったため、市町村合併にあたり新しい市の名前を大崎市とすることに対して、古川市から強い抵抗があったようです。このあたりの経緯は省略しますが、やはり自分たちが慣れ親しんだ町の名前が消えることは、複雑なものです。「古川駅」の名前を「大崎駅」に変更しなかったのは、そういった人達への配慮でしょうか。
松本家住宅を訪れる
古川の駅からバスに乗り、まず「松本家住宅」を訪ねました。最寄りのバス停は「小野田東」です。ちなみにこの「小野田」という名前は、かつてはこのあたりが小野田町だったころの名残のようです。この地域においても2003年の市町村合併により、加美町が誕生しました。
さて松本家は仙台藩に属していた奥山家の家老を務めた家系で、茅葺の武家住宅がそのまま残っています。建築されたのが約300年以上前のことと言われており、国の重要文化財にも指定されています。母屋と土間の二棟から成る造りは、なかなか重厚であるものの、単純かつ質素な技法で作られていました。美しい庭も残っており、のどかな田園風景が広がる中、かなりの掘り出し物でした。
薬莱山に登る
松本家住宅の後はいよいよ薬莱山に向かいましたが、途中で仙台からの路線バスに追い越されました。バス路線の路線図と時刻表は私にとって命綱ですので、事前に十分調べたはずです。「なんで」、「なんでここに路線バスが通っているの」と思わず叫んでしまいました。後で調べたところによると、仙台から加美行き直行の長距離バスでした(ちなみにこのあたりを加美地方と呼びます)。長距離バスであれば、途中乗車と途中下車が出来ませんので、事前にわかっていたとしても乗車することはなかったと自分に言い聞かせました。
さて当日は夏の真っ最中で、とにかく暑く、1hr以上歩いていると、軽い熱中症になったようです。頭が少し痛く、吐き気ももよおしてきました。薬莱山の登山口に着いた時は、頭痛と吐き気は収まっていましたが、正直、ばててしまっていたようです。いくら標高500m強の低山とはいえ、このような状態で無事登りきることが出来るのでしょうか。登山口で少し休みを取って、登山を開始しました。
やはり予想通り、少し歩いては休みを繰り返し、通常の歩行コースの1.5倍の時間をかけて、なんとか頂上にたどり着くことが出来ました。
このような家族向きの低山をこんなに時間をかけて登ることになるとは、少し情けない気持ちになりました。頂上でゆっくりした後、下山に入りましたが、そこでも悲劇が発生したのです。どうも道を間違えたようで、ヤブの中に迷いこんでしまいました。途中でようやく間違いと気づき引き返しましたが、軽い熱中症に加えて、この時間ロスにより、正直、疲れてしまいました。
頂上に戻ると仙台から来られたという中年のご婦人2人に出会いました。本日、初めての人との遭遇です。なんとお2人ともスニーカ姿です。私の方は、翌日以降の山行きもあり、かなりの重装備です。少し気まずいながらもいろいろお話をさせてもらいました。
鉄魚との出会い
軽い熱中症の中、なんとか薬莱山を登った後は、いよいよ待望の鉄魚です。そこは薬莱山の麓にある薬莱温泉「薬師の湯」です。まずとにかく温泉です。温泉は広々と開放的な雰囲気もあり、素晴らしいお風呂でした。そこでゆっくりと汗を流して、昼食を取った後は、いよいよ鉄魚とのご対面です。鉄魚はロビーにある水槽に飼われていました。恐らく、鉄魚という表示がないと、少し大きな金魚だと思ったかもしれません。ただ金魚を少し大きくしたようなこの魚は、尾ひれが長く、その姿は天女を思わせ、なんとも言えない神秘的な雰囲気を醸し出していました。私は夢中でシャッターを切りました。
温泉と幻の魚、「鉄魚」を見終えた頃には、熱中症もすっかり解消され、ゆっくりと最寄りのバス停である小野田支社まで歩いて行きました。東北百名山に加え、幻の魚、重要文化財、温泉を堪能した贅沢な1日でした。バスを使って気軽に行けるので、是非、お勧めしたいと思います。
<関連情報>
①旅程※時刻は訪問当日の時刻表です。もし訪れられる場合は最新の時刻表をご参照頂きますようお願いします。
【2007/8/9】
古川(8:30)=(バス)=小野田東(9:20)~徒歩(松本家武家屋敷~薬莱山~薬師の湯)~小野田支所前(16:30)=(バス)=西古川(17:42)=(陸羽東線)=古川(17:49)
②東北百名山:1990年7月1日発行 山と渓谷社
③是非、立ち寄りたい周辺のお勧めスポット(もちろん鉄道とバスと徒歩で)
世界谷地(2007年撮影)
栗駒山の中腹に拡がる大湿原(世界谷地とは広い湿原という意味)。5月から9月にかけて多くの高山植物が咲き乱れる。なお現在はバスと徒歩でのアプローチが難。
中新田町界隈(2007年撮影)
2003年まで中新田町であったが平成の市町村合併により加美町の一部に編入。石畳の道や各種文化施設が多い。写真はバッハホール。古川駅よりバスで25分
吉野作造記念館(2007年撮影)
吉野作造は大正時代に活躍した日本の政治学者。大正デモクラシーに影響を与えた。大崎市出身。JR古川駅から徒歩15分
④薬莱山