封人の家と分水嶺~松尾芭蕉も泊まった宿~(2000/8/4訪問

<カテゴリ:文化・遺産、自然、温泉>


  俳人松尾芭蕉は、奥の細道の旅で出羽街道中山越えを歩き、鳴子温泉(現在の宮城県)から尿前(しとまえ)の関に到着した際、関守に怪しまれて厳しい取り調べを受ける事になります。ようやく取り調べを終え、現在の山形県に入った後、雨宿りを兼ねて2泊したと言われているのが今回ご紹介する封人の家(旧有路家住宅)です。そしてこの封人の家は、芭蕉が「奥の細道」の旅中で宿泊した中で、唯一現存する建造物と言われています。1969年に国の重要文化財(建造物)に指定されました。

 さらにこの封人の家の近くに分水嶺があると聞きました。分水嶺とは、分水界などとも言われていて、水が異なる方向に流れる境界のことです。山の多い日本においては、山稜が境界になっている場合が多く、分水嶺と呼ばれているようです(日本山岳会ホームページより)。ただ今回訪れたような比較的平地に分水嶺があるのは珍しいようです。このように自然と文化遺産が同時に見ることが出来ると聞き、早速、訪れました。

陸羽東線堺田駅
陸羽東線堺田駅(1999年撮影)

 旅の起点は山形県北部の新庄駅になります。余談になりますが、この新庄を中心とした一帯は山形県の中でも最上地方と呼ばれています。秋田県から奥羽本線経由で新庄に至る路線は、日本の原風景が数多く残されており、私のお気に入りの路線です。特に秋田県南端の湯沢から新庄に至るまで車窓を眺めながらのんびりと各駅列車に乗ると、とても心が癒されます。今回も少し時間に余裕がありましたので、この区間を各駅列車で往復しました(下記旅程ご参照)。是非、お勧めの路線です。

 さて封人の家の最寄りの駅は、新庄から陸羽東線で10駅目の堺田駅です。お隣の中山平温泉は宮城県になりますので、まさに芭蕉が尿前越えを行った県境の地になります。

 これもまた余談になりますが、この陸羽東線は先日発表となった赤字路線の1つで、特に鳴子駅から新庄に至る陸羽東線の西側の赤字幅が大きいようです。是非、微力ながら、これからも出来るだけ鉄道を使い、路線継続に貢献したいものです。もちろん堺田駅は無人駅でした。

 

封人の家
封人の家(工事中)

封人の家を訪れる

 

 最初に訪れたのは封人の家です。境田の駅から徒歩5分のところにあります。「封人の家」とは国境を守る人の家のことを指すようです。以前は役屋という村役場の性格を持ち、宿場や伝馬の機能を備え持つ国境の大庄屋でした。昭和44年に山形県東部に古くから見られた茅葺き寄棟造り、広間型民家の代表例として重要文化財に指定されました。

 またこのあたりは馬の産地として知られ、俳人松尾芭蕉がここに投宿した際の印象を、かの有名な句「虱蚤馬の尿する枕もと」と表現しました。この句の解釈を巡っては、多くの説があるようです。折角、宿を取ったにも関わらず虱蚤で体中がかゆく、また枕元では馬の尿の音がするという待遇の悪さを書いているという説、また民俗的な観点から、馬が家族同様であるという点を強調しているという説 等です(最上町ホームページより)

 ただ実際に物を見て、個人的にはどちらの説も正しいような気がします。折角、宿を取って頂いたこのような立派な宿坊に感謝の念を表しつつも、初めて経験する馬の尿の音に驚いた状況を表しているのではないでしょうか。

 なお建物自体は当時の名士らしい、重厚のあるたたずまいでした。ただ私が訪れた時は工事中で、全容を見ることができず、残念でした。

 

分水嶺
分水嶺

分水嶺を訪れる

 

 次に訪れたのは封人の家の近くにある分水嶺です。先に記述の通り、分水嶺の多くは山間の水源近くにあり、今回のように比較的平地には珍しいようです。ただ大変に申し訳ありませんが、この珍しい光景をご説明するのに、肝心の分水の部分の写真撮影が出来ておらず。左の写真のように少し離れたとこから写真撮影したものしか残っていませんでした。小さく恐縮ですが、ゲートのところに文字が書かれています。右手に書かれているのが「太平洋」、左手に書かれているのが「日本海」、そうです、正に分水の地そのものです。これまで一緒の流れだったのに、ここでたまたま左手に流れた水路がやがて大河になり日本海へ、たまたま右手に流れた水は同じく大河となり太平洋に注ぎ込まれる、大げさな話ですが、この運命の分岐路を見ると、正直、感動すら覚えてしまいました。

 

温泉巡り

 

 さて自然と文化遺産を堪能した後は待望の温泉巡りです。今回利用した陸羽東線は愛称「奥の細道湯けむりライン」と言われており、温泉の宝庫です。特に陸羽東線の東部の宮城県側には鳴子温泉郷、鬼首温泉郷など有名な温泉地がたくさんあります。今回は折角、山形県の最上地方を訪れましたので、堺田の近くにある赤倉温泉と瀬見温泉を訪れました。赤倉温泉は少し駅から離れていますが、いずれの温泉も静かな温泉地で、旅の疲れを取ることができました。また瀬見温泉は平泉に落ち延びる弁慶が開湯したと伝えられ、多くの義経伝説が残る地です。ふかし湯という少し変わった温泉があり、サウナ気分を味わうことができました。もちろん駅から徒歩圏内です。

赤倉温泉
赤倉温泉(陸羽東線赤倉温泉駅から徒歩35分)
瀬見温泉
瀬見温泉(陸羽東線瀬見温泉駅から徒歩10分)

  

 是非、皆さんも自然と文化遺産を同時に味わうことができる封人の家と分水嶺を訪れてみませんか(もちろん車を使わずに)。


<関連情報>

①旅程※時刻は訪問当日の時刻表です。もし訪れられる場合は最新の時刻表をご参照頂きますようお願いします。

【2000/8/4】

東京(6:32)=(つばさ111号)=新庄(9:57)(10:35)=(陸羽東線)=堺田(11:25)~封人の家、分水嶺

堺田(12:32)=(陸羽東線)=赤倉温泉(12:38)~赤倉温泉

赤倉温泉(14:36)=(陸羽東線)=瀬見温泉(14:56)~瀬見温泉

瀬見温泉(16:19)=(陸羽東線)=新庄(16:46)

新庄(16:56)=(奥羽本線)=湯沢(17:57)()17:59)=(奥羽本線)=新庄(19:09)(泊)  ・・日本の原風景が楽しめる路線を往復 

 

②是非、立ち寄りたい周辺のお勧めスポット(もちろん鉄道とバスと徒歩で)   

肘折温泉

肘折温泉(1996年撮影)

月山の麓にある昔ながらの湯治場の雰囲気を残した温泉郷。日本有数の豪雪地帯。JR新庄駅からバスで60分。

雪の里情報舘

雪の里情報舘(2001年撮影)

日本有数の豪雪地帯である最上地方での生活や文化などを学べる。国の登録有形文化財。JR新庄駅から徒歩15分。

万騎ノ原古戦場

万騎ノ原古戦場跡(2000年撮影)

1580年、最上の領主細川と山形の領主最上が戦い、最上の大軍の前に細川が破れた古戦場跡。JR赤湯温泉から徒歩20分。

 


③封人の家(旧有路家住宅)と分水嶺