勿来(なこそ)の関~古代より歌枕として詠われた地を歩く~【2020/10/25訪問】

<カテゴリ:自然・文化遺産>


 「勿来(なこそ)の関」は、「鼠ケ関(ねずがせき)」、「白河の関(しらかわのせき)」と共に、奥州三古関として知られています。白河の関」に続く、奥州三古関の第2弾として「勿来の関」を訪問してきました。「白河の関」と比べて「勿来の関」は、知名度において若干劣るものの、古くから歌枕の地として親しまれてきました。一方、関所という点においては、白河の関は本当に関所であったのかかなり疑問であるとさせてもらいましたが、勿来の関は、より疑問であると思っていました。というのは、福島県の海岸沿い、しかもメイン街道から少し離れたところに何故関所があるのかと思うためです。こういった疑問を解消すべく、出向きました。

常磐線勿来駅
常磐線勿来駅

 旅の起点は常磐線の勿来駅です。余談になりますが、常磐線は東日本大震災の影響で長期にわたり普通となっていましたが、何度かの部分開通を経て、2020年3月14日に全面開通しました。JRの鉄道の中でも「本線」ではない路線の中で最も長い路線です。

 このあたりは江戸時代には、水戸と磐城、相馬、仙台をつなぐ浜街道に沿っていくつかの宿場があり、ここ勿来にも関田宿という宿場町が形成されていたようです(もちろん現在はその面影がありませんが)。そして「勿来駅」は、福島県を走る常磐線の最南端の駅にあたります。お隣の大津港駅はもう関東圏でもある茨城県です。その意味で、関所としての場所の有力な候補ではありそうだと、出発当初は思っていました。しかしその思いは、勿来の関跡に近づくにつれて消えていくことになるのです。

勿来の関跡
勿来の関跡

 勿来の関跡は、勿来駅から徒歩約20分の小高い丘にあります。私が訪れたのは、晩秋の雲1つない晴れた日で、駅からの道のりが大変に心地よく感じる日でした。一方、結構、小高い丘を登るため、このようなところに、何故、関所があるのだろうか、当初から思っていた疑問がいよいよ深まっていきます。

 途中で勿来の関跡という入口があり、そこには源義家の像がありました。源義家が詠んだ「吹風をなこその関とおもえども道もせにちる山桜かな」が非常に有名なため、ここ勿来の関の象徴的な存在として、源義家の像があるようです。またこの句からもわかるように、古来よりこの辺りは桜の名所だったようです。もちろん「勿来の関跡」という地名にも関わらず、関所としての痕跡はありません。

 そこから車道に別れを告げて歩道を歩くことになりますが、そこには古来より勿来の関を歌枕とした詩・歌の碑が数多く建てられていました。それも斉藤茂吉、松尾芭蕉、小野小町といった歴史上の名だたる人物の詩・歌が書かれています。ただこういった詩人・歌人たちの多くは、実際にこの地に足を踏み入れたわけではないようです。案内を見て初めて知ったのですが、「勿来(なこそ)」というのは、「来ないでほしい」という意味のようで、「人も恋も道も国さえも分かつ関」という意味があるようです。このあたりがきっと古来より詩人・歌人の心を惹きつけてきたに違いないと思い始めてきました。

勿来文学歴史舘
勿来文学歴史舘

 こういった碑に書かれた詩や歌を楽しみながら歩いていくと、勿来の関文学歴史館に到達します。歴史舘では、関所の由来、斉藤茂吉その他の文人・歌人の作品がパネルで開設されています。また勿来地域周辺の展示などもありました。ただ関所という意味では、東北地方の先住民族の勢力が盛んだった五世紀頃、その南下を防ぐために設けられたというのが唯一の記述でした。

 正直、この時点では、すでに関所としての位置づけに対する興味はほとんどなくなっていました。関所などといったものは実際はなく、古来よりの詩人・歌人たちの「なこそ(こないでほしい)」という言葉の響きに代表される歌枕としての憧れの場所に違いないと、思うようになっていました。実際、本稿を作成するにあたり、改めて調べて見たところ、関所としての存在自体が疑わしいという説もあるようです。

勿来公園
勿来公園

 付近一帯は勿来県立自然公園に指定されています。また近くには「勿来の関公園体験学習施設吹風殿」があり、ここでは源義家の歌が詠まれた平安時代の邸宅を模した体験学習ができます。これらの風景をゆっくりと楽しみながら、来た道と同じ道を辿り帰路につきました。

 

 皆さんも、関所跡はどこだ?といった難しいことをあまり考えずに、是非、古来より歌枕の地として有名なこの地を訪れて、いにしえのロマンに浸ってみては如何でしょうか。なおその際には、途中の勿来の関跡から歩道を歩いて、ゆっくりと詩碑や歌碑に書かれた内容を楽しみながら行かれることをお勧めします。

 


<関連情報>

①旅程※時刻は訪問当日の時刻表です。もし訪れられる場合は最新の時刻表をご参照頂きますようお願いします。

【2020/10/25】

品川(6:45)=(常磐線ひたち1号)=勿来(8:58)~(徒歩:勿来の関跡、勿来文学歴史舘、勿来の関公園、吹風殿)~勿来11:20

 

②是非、立ち寄りたい周辺のお勧めスポット(もちろん鉄道とバスと徒歩で) 

塩屋崎灯台

塩屋崎灯台(2021年撮影)

いわき市平薄磯に建つ灯台で、雄大な太平洋を望むことができる。「日本の灯台50選(海上保安庁)」にも選定。また近くには美空ひばりの「みだれ髪」の歌碑がある。いわき駅からバス35分。

 

アクアマリンふくしま

アクアマリンふくしま(2021年撮影)

いわき市小名浜にある東北地方最大級の水族館。観光施設に加えて教育施設としての役割を持ち、大人でも十分に楽しむことができる。常磐線のいわきや泉駅からバスが出ている。

 


③勿来の関